長井高校写真部とつくる彫塑と写真の展覧会

2020年10月31日~12月27日

彫刻家・長沼孝三は活動の拠点を東京に置きながらも、常にその心は故郷の長井にありました。その思いを表すかのように、現在も多くの野外彫刻作品が長井の風景に溶け込みながら、道行く人々に優しい眼差しを向けています。

 本展は、通常オフホワイトの壁面である作品の背景を、作家の愛した長井の風景に置き換えることで、新たな視点から長沼芸術の魅力を再発見し、作品理解を深める契機とするものです。

 展示に際して、事前に撮影や見せ方の技術と心構えについてのレクチャーを行うとともに、彫塑館内での鑑賞活動を実施しました。それらを踏まえて撮影された写真は、いずれも作者への敬意と深い作品理解に基づきながらも、独自の解釈と視点によって瑞々しく表現され、写真表現への熱意が伝わる緊張感のあるものとなっています。

 本展を通じ、目に馴染んだ作品に新たな側面から光が与えられ、永く世代を超えて人々に愛されることを祈念します。最後に、講師を勤めていただきました船山裕紀氏と、素晴らしい作品をご提供くださいました長井高等学校写真部の皆様に、深く感謝申し上げます。

以下、展示作品と講評時のコメントを掲載しています。講評は船山先生、写真部顧問の武田先生、文教の後藤で行ったものを要約して記載しています。


展示作品紹介

グループ1|使用作品:傀儡|メンバー:平理久人・平弘太郎・小形征也・横山宗史

私たちは、「傀儡」という彫塑を選びました。何かを私たちに伝えているようで、じっと見つめるとだんだんと吸い込まれていくような、そんな感じがしました。「この彫塑の背景になる写真は、薄暗く、静かな感じがいい。」そう、3人で思いつつ、作品の制作を始めました。

 

授業が終わった放課後の、夕方の時間帯を狙って撮影会をしました。ただ薄暗いだけでは物足りなかったので、夕日の暖かな光を取り込んでみました。「傀儡」の名にふさわしい、不思議で幻想的な写真に仕上がったと思います。

 

講師コメント

斜めの構図にすることで、不思議な感覚やさまよっている感覚、気持ち悪い感覚が伝わる。また画面の中心から奥に向かって伸びる道は、本来高揚感や未来への希望を演出するものだが、この場合は道がいびつに曲がって奥が見通せないために不安感を高めている。空との強いコントラストが幻想的な演出となっている。

道の左に一見気づかないが人物が写りこんでおり、そのポーズが「傀儡」という彫塑と響きあい一体感が高まっている。今後、この道の必然性、季節感、突き当りの家の形など吟味するとより表現が深まる。


グループ2|使用作品:着衣女立像|メンバー:松木大河・島貫彩音・安部陽斗

お洒落に着飾った大和撫子。

凛とした若々しさと、大人びた雰囲気と、ノスタルジックを纏っている。

当時は今以上に光輝き人々を魅了したことだろう。

私は想う。きっとこの彫塑は、この「女性」は、長沼孝三氏が生きた当時の凛として雄大な長井の大自然、そこに生きる人々の「権化」なのではないかと。

今はあらゆる技術の進歩により人々の生活の質は豊かになった。

しかし、自然、人の和の豊かさは失われてきてはないだろうか。

その過程で新しいものがもてはやされ、昔からの美しさに飽きがき始め、風化してきている。

そんな中でも変わることなく、輝きを放ち、私たちに故郷の美しさを静かに語ってくれている。

きっと「あき」は来ないだろう。

 

講師コメント

都会から帰った人が、その力強い雰囲気を身にまといながらも、どこか不安げな表情を見せているような哀愁や物寂しさを感じさせる。木々の紅葉した様子と葉が散った様子との対比が、秋から冬にかけての空気感を演出しており、そのような印象を与える。また縦構図にし、下から上への広がりや奥行き感や立体感を強調しており、空気感が伝わる。一方でこの彫塑は多様なとらえ方ができるので、コンセプトを明快にして取り組む必要がある点で難易度が高いといえる。像の向きを変えるなど吟味すればより明確に伝わる表現となる。


グループ3|使用作品:倦厭|メンバー:石川愛梨・黒澤圭斗・齋藤大介

この彫塑は、日の入り際の時に、何か物思いにふけながら考え事をしているということを、第一印象として持ちました。背景の写真は、長井市内の公園にて鳴き声とともに空を飛ぶ鳥がこの彫塑と背景に映えると感じたので、二匹が飛んでいる瞬間をとらえました。

 長沼孝三さんの作品の背景となる写真を撮影させていただけるということで、夕方でも夜でもないこの時間に写真を撮りました。一日で数分しか見ることのできないこの空の風景を楽しんでいただけたら幸いです。

 

講師コメント

2羽の鳥が見事に収まっており素晴らしい。プロでも山に入って数時間「鳥待ち」をすることもあるが、若い時分はこういう偶然に出会いやすいものだ。

また、像の配置や向きによって、表現内容が変化することがある。この場合は時計を見るように配置すると現実に追われうんざりしているような演出となり、左に寄せると2羽の鳥に焦点が移り未来への希望を感じさせる演出になる。その部分まで吟味して表現を深められるとよい。


グループ4|使用作品:地蔵尊|メンバー:井上魁・安部紫音・齋藤優奈・齋藤龍太

お地蔵様と聞くと、その土地に住む人々の平和や、道行く人たちの安全を見守っている石像を思い浮かべるでしょう。

私たちはこの仏像を見て、遠くを見据えている優しそうな瞳から世の中を平和な未来へと導いてくださるような気がしました。

そこで、その平和な未来から差す光を木々から出る木漏れ日で表現しようと思い、こちらの写真を撮影しました。

この写真を見てくださった皆様に、平和な未来が訪れますよう、心から祈っています。

 

講師コメント

この作品は、彫刻を見る水平な視点に対し、天を仰いだ垂直視点の写真を組み合わせていて、現実には存在しえない状況を作り出すことで神秘性を演出している。また神社の杉林が持つ凛とした空気感も表現されている。中央をより明るくすると、後光がさしているような印象がより強まる。


グループ5|使用作品:少年少女立像|メンバー:長谷川啓太・佐藤まどか・横澤百花・別部瑛斗

私たちは「少年少女立像」という塑像を選びました。この像からは、自らが抱える不安をこの像を見る人に訴えかけているような印象を受けました。像のタイトルも「少年少女立像」というように、性別をあえて明言せずに曖昧に少年少女と言っていることからも不安な状態を表しているのだと思いました。

しかし、像のポーズは何かを祈っているかのようなポーズをとっているところから背景には光が差し込み希望に満ち溢れた情景にしました。

 

講師コメント

背景に伸びる木の枝ぶりが千手観音のようにも見え、悪魔のようにも見える不思議な作品になった。また左右対称の構図にしたことでアート的な雰囲気が出ている。もし希望や救済を表現するなら明るめに、不安感や謎めいた印象を出すなら手前を暗くするなどの工夫があるとよい。

写真だけだとどこにでもありそうな風景なのだが、彫塑と組み合わせることで別物に変化するという良い例だ。


グループ6|使用作品:自縄自縛男|メンバー:吉田雅弥・小関仁・高橋玲央

まず、彫塑を見た時、この人間は何をしたいんだ…!? 自分の手、足、目を縛って何を求めているのだろうという第一印象がありました。何が起こるのかわからないような不気味さを漂わせるということを班の共通の課題として取り組んだところ、暗闇の中に沢山ろうそくを灯して、少しオカルトチックな作品を創り上げることができたかなと思います。

最後に、作者である長沼幸三さんに感謝の心を持ちつつ、作品を際立てることができ、とても良い機会であったなと僕たち6班一同思っております。本当に有り難うございました。

 

講師コメント

写真を撮るときに、そこにあるものをただ写すのではなく、蝋燭を立て、暗さを求めて深夜に撮影するなど状況をつくりこむというのは表現として一歩深く入り込んでいる。なかったらつくる、もしくは物を動かす、もしくは自分が動くというのはプロの原則だが、それができているのが素晴らしい。本来は古代の丘で土偶広場を撮影する予定だったというので、その組み合わせも見てみたい。


総評として

今回の取り組みは既にある彫塑と組み合わせることを前提に撮影するという、表現としても新たな手法だといえる。まだまだ展開が可能なので今後も継続的に取り組みたい。

生徒の皆さんは彫塑をないがしろにせず、しっかりと真摯に向き合ったうえで表現に臨んでくれた。そのことが本展を成功に導いたと思う。

生徒は今回グループに分かれて撮影に臨んだが、その際にいつもの顔触れとは異なるランダムな組み合わせで行うという提案があり、そのようにしたことが新しい挑戦となり良い結果を生んだと思う。

長く長沼作品を見てきた人と違い、生徒の皆さんは先入観なく率直に表現した。そのことが新たな視点を生み、みずみずしい表現につながった。また郷土の作家としての長沼孝三というより、普遍的な芸術性を引き出してくれたことに感謝したい。


展示、講評会、レクチャーの様子

日時|

レクチャー:10月3日

展覧会:10月31日~12月27日

講評会:12月19日

会場|長沼孝三彫塑館

観覧料|入館料を参照

講師|船山裕紀

ふなやまゆうき/フリーフォトグラファー

山形県出身。2008 年に独立しその後フリーフォトグラファーとして活動。東北・北関東を中心にポートレート・建築・食品など広告写真を主に撮影。